鍔本達朗(1952- )《In Black 85-5》1985 年、リトグラフ
版画は「黒に始まり黒に終わる」といわれるように、黒が基盤となる芸術である。本作「In Black」シリーズは、この黒を効果的に用いた作品群であり、今回の展覧会で展示される「In Black 85-5」もそのうちの一つである。
この作品はどのような世界を描写しているのだろうか。深海を表していると感じる人もいれば、宇宙を表していると感じる人、若しくはまた別の世界を想像する人もいるかもしれない。黒い背景のなかに彩度を抑えた色調のモチーフがうかび上がり、厳かで幻想的な世界を作り上げるこの作品は、見る者に多様な解釈を与えるだろう。さらに近づいてみると、モチーフの中に日本美術を思わせるような線が走っているのがわかる。本作品は、一見西洋美術的な秩序を感じさせるが、その中の無造作な線が作品の魅力を増幅させ、独特の世界を形作っている。細やかな筆致や巧みな色遣いは、リトグラフという版画技法が十分に活かされた結果と言えるだろう。
作者の鍔本達朗は愛知県出身の版画家である。鍔本は武蔵野美術大学にて版画を学び、パリに留学してその技術を磨いた。石田財団芸術奨励賞をはじめとした多くの賞を受賞している。現在は碧南市の市議会議員を務めている。
参考
中日新聞 朝刊 1990年5月9日 県内版 16頁 「空間と色彩ユニーク 石田財団芸術奨励賞 牛田明・鍔本達朗展」
中日新聞 朝刊 1990年12月15日 県内総合版 17頁 「詩や現代美術で活躍 碧南在住3作家が出版と受賞祝賀会 あす、音楽演奏会も」
中日新聞 朝刊 2001年10月4日 西河総合版 21頁 「親しみと前衛 陶芸と石版画 高浜、碧南で作品展」
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