アントニ・タピエス(1923-2012)《Senanque I》1983 年、リトグラフ

 


 

 黒と黄色のシンプルな色遣いと、大胆で荒々しい筆致。抽象的な構図ですが、よく見ると上部の黒い模様は人の目のようにも見えてきます。

 この作品の作者であるアントニ・タピエスは、落書きのような筆致の中に様々なモチーフを象徴的に取りこんで描きました。彼の作品には指や手足といった人物の一部や、記号や文字、彼の故郷カタルーニャの国旗の色である赤と黄色がよく登場します。また、岡倉天心の『茶の本』を愛読していた彼は東洋の思想や哲学にも影響を受けました。「小さなものの偉大さ」や「悲しみと不安の世界に美を見いだす」という道教や禅仏教の考えが作品に取り入れられています。

 《Senanque Ⅰ》は、フランスのセナンク修道院で行われた博覧会のポスターとして制作されたものです。掲示される際には、下部の空白に赤字でTapiesの文字と博覧会の詳細が記入されていました。ひときわ目を引く右下の記号は十字架でしょうか。修道院らしいモチーフを使いながらも彼の作風がよく表れています。

 

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