東谷武美(1948- )《日蝕 O》1985 年、リトグラフ
距離を取ってこの作品を眺めたとき、何が描かれているのかわからない。画面は暗く、赤と黒の組み合わせから不気味に思うこともある。担当者ははじめ、台の上に赤子が蹲っているのだと思っていた。
さて、作品名は〈日蝕O〉、モチーフは氷である。作者の東谷武美は日蝕シリーズとして、何度も氷が溶け行くさまを作品としている。それを知ってから近寄り、角度を変えて眺めると浮かび上がるものがある。中央下の白い線は、氷の塊が溶けだして流れた水だろうか。氷塊の周りには、角度によって反射して見える蒸気のようなものが存在している。赤い部分は、蓄えられた熱だと考えることも出来る。この作品では、物質の三態である、固体・液体・気体が表現されているのである。作者はエネルギーを常に意識していたという。物質の状態変化というエネルギーを必要とする移り変わりによって、目には見えないはずのエネルギーを表現しているのではないだろうか。
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