渋谷和良(1958- )《斜光林》1989 年、リトグラフ
「斜光林」は渋谷和良によって、平面版画の技法の一つ、リトグラフを用いて制作された版画です。
油絵の作成にも取り組んでいた渋谷は、版画分野においては、より使いやすいアルミや亜鉛ではなく、石版石を用いたリトグラフの制作にこだわりを持っていました。非常に重く、自分の自由に扱うことが出来ないからこそ、身体性で遊ぶということが可能だと考えたためです。
「斜光林」を眺めると、大きな版画の中に様々な点や線、また色が混在していることが分かります。リトグラフを単なる版画の一技法とするのではなく、一版ずつ色を加えることで重層的な世界を成立させる手段としている点に特徴があります。こうすることで、リトグラフという平面の中に、立体的な奥行きが生まれているのです。筆の運動を感じさせる黒のストロークが、あえてこの奥行きの上に置かれることで、立体的な世界が平面の中に閉じ込められているかのように感じられます。平面版画であるリトグラフと、その中に描かれている立体的な世界、その両方を「斜光林」を通して味わうことが出来ます。
コメント
コメントを投稿