【オリジナル記事】~イランカラプテ~北海道各地にあるアイヌの博物館

 アイヌとは、北海道や千島列島、樺太に住む先住民族を指す。明治以前は独自言語を持ちつつも独自の文字を持たず、農耕ではなく独自の猟具を用いて狩猟を中心に生活していた。イランカラプテはアイヌの挨拶の言葉で、「貴方の心にそっと触れさせていただきます」という意味であるという。また、神「カムイ」が自然の動植物の他、人工の道具にも姿を変え、人間の暮らす世界「アイヌモシリ」に現れているという、独特の信仰をもっていた。明治以降は北海道旧土人法や伝統的な狩猟の禁止、部族言語による会話禁止など、数々の差別・弾圧を受けてきたことでも知られる。

そうしたアイヌの文化を守り、受け継ぐ博物館が、北海道各地に点在する。筆者は昨年度に北海道へ計27日滞在しており、道内の各地でアイヌの博物館や展示を訪れた。各々を訪れたことは、道内の各地でアイヌの文化にも違いが見られることであった。ここで気をつけるべきことは、アイヌは単一の集団ではなく、北海道各地や樺太、千島列島の各地に点在した集団の総称のことである。

まず、最近菅義偉元首相が訪れ、北海道のアイヌ保護の象徴といわれるウポポイについて。別名、民族共生象徴空間。日本のアイヌ保護の象徴的存在であり、北海道のアイヌの伝統的な衣服や祭器、狩猟道具を中心に展示される。野外にはポロト湖と呼ばれる湖が広がり、アイヌの家屋が野外展示されている。アイヌ文化を学ぶための体験教室やシアターも展示され、アイヌの伝統的文化を学ぶためならオススメである。

しかし一方で、アイヌが和人に迫害された歴史や、逆にアイヌ保護に至る過程についてはあまり語られず、それ故に一部の迫害されてきたアイヌから不満を買うこともある。また、北海道各地で同じアイヌでも文化が異なることは、ウポポイからは見えづらかった。理由として、そもそもウポポイがアイヌ民族という1つのカテゴリーを通して、アイヌの文化の保護や伝承を行っているためである。





次に稚内市北方記念館について。この博物館では日本最北端の市町村である稚内市とその周辺に住んでいた「宗谷アイヌ」という小集団を紹介している。彼ら宗谷アイヌは、稚内よりも北に位置する樺太との関わりや、15世紀から北方警備を行っていた会津藩との関わりの中で説明される。樺太には樺太アイヌという、宗谷アイヌとはまた別の小集団が存在した。





最後に阿寒湖アイヌコタンについて、阿寒湖のほとりにあるアイヌの村について紹介したい。阿寒湖は道東の内陸部で北見より南東、釧路より北北西に位置する。「コタン」とはアイヌ語で「集落」を意味し、村の各地にアイヌ生活記念館「ポンチセ」(小さい家)やアイヌシアター「イコロ」など、阿寒湖のアイヌの歴史や文化を伝える施設が点在する。そして現地のアイヌ達は、和人の財団所有者、前田光子氏が阿寒湖のほとりでアイヌの生活を保護し、生活空間を無償で提供したために、道内各地から集まった。つまり彼らの歴史は、和人に迫害された歴史ではなく、和人との共生や文化保護を享受してきたと説明される。これは道内各地のアイヌの中でも珍しく、阿寒湖アイヌコタンならではの歴史である。


以上より、同じアイヌの歴史を扱う博物館でも、その説明は各々で代ってくる。その理由は、アイヌが統一した文化をもつ一つの集団ではなく、地域ごとに差異のある文化をもつ、数々の小集団の総称であるからである。「アイヌ民族」という呼称はその小集団の存在を無視し、アイヌを「1つの民族」とミスリードしてしまう可能性がある。それ故に、北海道各地や千島列島、樺太と、現地ならではの、オリジナリティのある文化や歴史を伝えていくべきである。





参考にしたサイト

https://w-shinko.co.jp/hoppo-kinenkan/exhibition/

https://5thset.team/blogs/kushiro-sightseeing/akanko-ainu-kotan#:~:text=%E9%98%BF%E5%AF%92%E6%B9%96%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%83%8C%E3%82%B3%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%81%AE%E3%82%88%E3%81%8F,%E8%A6%B3%E8%A6%A7%E6%96%99%E3%81%8C%E5%BF%85%E8%A6%81%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82

https://www.city.wakkanai.hokkaido.jp/kanko/midokoro/spot/karafuto-museum.html





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