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【オリジナル記事】岡山県のおすすめ博物館、「つやま自然のふしぎ館」について

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  皆さん、岡山県に足を運んだことはありますか? この記事を書いている私は岡山県出身です。岡山の美術館・博物館といえば、日本最初の私立西洋美術館である大原美術館が有名かと思いますが、岡山には他にも面白い美術館や博物館がたくさんあります。今回は岡山県津山市にある自然史総合博物館「つやま自然のふしぎ館」をご紹介します。 (撮影:筆者) 「つやま自然のふしぎ館」の大きな特徴として、動物の実物はく製標本が 800 体ほど展示されていることが挙げられます。ワシントン条約が発効される前に蒐集されたキンシコウやインドライオン、ホッキョクグマなど、貴重な動物のはく製も数多く展示されています。 (撮影:筆者) 動物のはく製以外にも、世界各地の蝶類、昆虫類、貝類、化石類、鉱石・岩石類などの標本をおよそ 22,000 点も所蔵しており、それらが所狭しと展示されています。 (撮影:筆者) それらに加えて、今はもう亡き初代館長の脳、心臓、肺、肝臓といった様々な臓器の実物がホルマリン漬けになって展示されているのもこの博物館のすごいポイントです。初代館長本人の希望でそのようになったらしく、本人の遺言までもが展示されています。 また、この博物館には様々な月齢の胎児の実物標本もあります。これらの標本は館員さんに声をかけると奥の部屋でそっと見せていただくことができます。標本になるに至った背景を考えると少しショッキングな展示かもしれません。しかしこれらの標本からは、図解だけでは伝わりづらいような、それらの質量や質感なども学ぶことができます。生命について改めて考えることができる展示であると私は考えています。 そして何よりも私が好きなのは、展示の仕方や解説がユニークで笑わずにはいられないという点です。 (撮影:筆者)        画像引用:「つやま自然のふしぎ館 中編」 sogensyooku のブログ , https://sogensyooku.hatenablog.com/entry/2020/09/22/203825 (最終閲覧日: 2022 年 8 月 24 日)        「なんと、北極出身のクマと南極出身のアザラシが津山で前代未聞のご対面です!!この感動をあなたに!!」という文面の強さ。私はこれを初めて読んだとき、涙が出るほど笑ってしまいました。当時の私は笑いすぎて写真を撮るどころで

【オリジナル記事】学校全体が博物館!今ある場所の活用法

 近年、旧校舎や廃校を博物館として活用する事例が増加している。 例えば、「東草野山村博物館」は旧東草野小中学校校舎に開設された博物館である。教室を展示室として活用し、民家の模型、旧東草野小中学校校舎の想い出の品を展示している。 また、「ふじのくに地球環境史ミュージアム」は廃校となった高校をリノベーションした博物館である。南側で日当たりの良い教室は研究室、北側の特別教室は温度変化を嫌う収蔵室にするなど、工夫することで廃校をうまく活用している。 かつて子どもたちが通い、活気に溢れていた校舎が誰にも使用されず放置されることは寂しいことである。旧校舎や博物館を博物館として活用することで、人々が集まり地域活性化にもつながる。また、懐かしい校舎を目にすることで、家族など博物館を訪れた人々の間での会話や交流が増えると思われる。博物館へのリノベーションは、年々大きくなっていく廃校問題にも大きな影響を与えていくのではないだろうか。 博物館を作るためには、必ずしも新たな場所が必要であるということはない。今ある場所を活用し、人が集う場所を生み出すことができるのである。(N.T)   参考 中日新聞「雪深き東草野の魅力伝える 旧校舎を活用した「博物館」誕生」( 2022 年 8 月 2 日付) 「ふじのくに地球環境史ミュージアム」 https://www.fujimu100.jp/museum/renovation/

【オリジナル記事】身近な文化施設へ行こう!

皆さんは、自分の近所にある博物館、あるいは美術館をご存じですか?そこに行ったことがありますか?小学生の時などに学校の行事として行くことはあっても、大学生になってからは一度も行っていない、という方も多いのではないでしょうか。住んでいる地域によっては、博物館も美術館も家の近くにはないという方もいらっしゃるかもしれません。しかし、昔社会見学で訪れたちょっとした資料館のような施設自体は、多くの町にあるのではないかなと思います。私の提案は、今だからこそ、そのような身近にある施設へ行ってみよう、ということです。 名古屋市には立派な美術館や博物館が多くあり、そこで行われている展示は興味深いものばかりです。だからといって地域の小さな博物館は面白くないのかというと、決してそんなことはありません。地域の博物館に集まっている資料は地元に関係するものが多く、自分の見慣れたもの、身近なものの、これまで知らなかった意味や価値を改めて発見できます。小さな頃は意味が分からず何となく眺めていたものにも、知識が身についた今であれば、以前と違った面白さ、以前以上の面白さを発見することが出来るはずです。 今も新型コロナウイルスの感染拡大は続いており、面白い展示が行われているからといって、遠方に向かうことが難しい状況にあると言えます。そんな今だからこそ、身近な文化施設を訪れてみてはいかがでしょうか。   ( 文  H.H)

【オリジナル記事】「芸術祭で体感する現代アート」

 芸術に触れる場所や機会は、博物館や美術館に限らない。私は高校生の頃、美術部の合宿に同行する形で初めて「芸術祭」というものに参加した。新潟県の越後妻有の里山を舞台に開かれる「大地の芸術祭」である。広大な土地に点在するアートを参加者が巡るというもので、ものによっては部屋全体、家全体が一つの作品となっており、その規模の大きさに驚いた。宿泊したのも旧校舎を改造した施設であり、これも作品のうちの一つである。絵画、彫刻、映像やプロジェクションマッピングなど、様々な形態のアートに触れることができ、まさに芸術を「体感」することが出来たように思う。 そんな芸術祭が、今年は愛知県でも開催されている。「あいち 2022 」という国際芸術祭で、「 STILL ALIVE 」をテーマに国内外の 82 組のアーティストやグループの作品が展示される。展示だけでなく、ツアーやワークショップ、ラーニング・プログラムなど、アートを楽しむための企画が盛り沢山である。この芸術祭で取り扱われているのは現代アートであり、難解だと感じる人がいるかもしれない。しかし、そんな人にこそ芸術祭に参加し、そのイメージを払拭してアートを楽しんでもらいたい。開催期間は 10 月 10 日の月曜日まで。この機会にぜひ芸術との関りを持ってみてはいかがだろうか。 因みに、前述した「大地の芸術祭」も今年開催されている。この他にも 2022 年は各地で芸術祭が開催されているため、地元や旅行先で訪れてみるのも良いかもしれない。 N. A

【コラム】“変わる”博物館と博物館実習

   コロナ禍において最も有効な感染対策は、密閉・密集・密接のいわゆる三密を避けることとされ、人が一堂に会することを忌避するようになった。 2 年前の全国一斉の緊急事態宣言発出時には、多くの博物館 ( 美術館・文学館・水族館含む ) が臨時休館に追い込まれたが、その間、博物館は自宅でも展示を楽しめるよう、 YouTube や自館の HP のコンテンツを充実させ、それは休館が明けた今でも新しい博物館の形として続いている。  コロナによってのみならず、博物館の教育活動は、様々に変革を遂げつつある。博物館というと、ただ行って観て終わりというイメージをお持ちの方も多かろうし、それに伴って博物館の「教育活動」という語に疑問を持たれた方もいるかもしれない。最近では、博物館の展示品の撮影や手で触れることを解禁している館も多い。これには 20 代後半の筆者も、随分と驚かされたものだ。加えて、展示品の脇のキャプションでは説明しきれないことを、 QR コードで埋め込んで補足できるようにするなど、スマホを活用した展示も増えつつある。 そして、博物館の教育活動として、近年脚光を浴びているのが「対話型鑑賞」である。ご存じだろうか。これは主に学芸員などスタッフがファシリテーター ( 司会 ) となって、参加者の自由な視点や発言をその場の全員で共有し、また新たな視点や発言を促していく…という鑑賞の方法である。本ブログで紹介されている博物館実習においても、対話型鑑賞は取り入れられており、 8/25 に実施されている。 博物館実習というと、十年一日の変わり映えがない授業だと思われる方もいるかもしれない。しかしコロナ禍に限らず、アクティブラーニングの隆盛なども相まって、博物館が自主的に変化しようとしていることは、案外知られていないようにも思われる。このような変革の時期にあっては、博物館の実質である学芸員養成のあり方もまた、変わってきつつある。 (N.M.)

【コラム】野外博物館の魅力

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  皆さんは博物館と聞くとどんなイメージを持ちますか?おそらく多くの人が抱いているイメージは、室内に様々な展示物が並べられていて、それらを静かに鑑賞するというものではないでしょうか。しかし愛知県内には、そんなイメージとは違った面白い博物館があります。 最初に紹介するのは博物館明治村です。明治村は時代の流れと共に取り壊されていく明治の文化財を惜しみ、その保存を図るために創設された野外博物館です。そのため明治時代の様々な建築物が移設されています。建築物自体も貴重な文化財ですが、その建物内にも当時使用されていた調度品や道具、機械など、明治に関連する様々な資料が展示されています。また、実際に走る蒸気機関車や路面電車に乗ることができたり、明治時代の衣装を着て施設内を散策できたりと、鑑賞だけでなく様々な体験もできます。まるで明治時代にタイムスリップしたような景観を活かし、「聯合艦隊司令長官 山本五十六」や「坂の上の雲」など様々な映画・ドラマのロケ地にも利用されています。 次に、野外民族博物館リトルワールドを紹介します。リトルワールドは世界各国の伝統建築物を展示しており、まるで世界旅行をしているような気分を味わえます。屋外施設は勿論ですが、屋内にある本館展示室も非常に充実しています。また、民族衣装体験をはじめとした様々な体験ができますが、リトルワールドは特に食べ物に力を入れています。施設内には 14 ものレストランがあり、各レストランではそれぞれの地域に合わせた料理を提供しているため、多様な食文化を体験することができます。 野外博物館は、広い敷地を歩き回り、文化に触れ、風景を見て楽しむという、他の博物館とはひと味違った楽しみ方が魅力の一つです。まるで自分が見知らぬ土地を探検しているかのような、胸が高鳴る体験となるでしょう。興味を持った方はぜひ一度訪れてみてください。   KY   博物館明治村 (画像出典: https://mustar.meitetsu.co.jp/mufg/know/service/onecoinday/ )   野外民族博物館リトルワールド (画像出典: https://mustar.meitetsu.co.jp/mufg/know/service/onecoinday/ )   博物館明治村公式

【コラム】

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  突然ですが、博物館で泊まってみたいと思ったことはありませんか? 私はあります。幼い頃読んだ児童書「クローディアの秘密」のように、展示品の寝台で寝てみたい、夜の博物館を自分だけのものにしてみたい、と思ったことがあります。 ( 「クローディアの秘密」は 12 歳と 10 歳の姉弟が家出をし、メトロポリタン美術館に隠れて泊まる物語。とても面白いです! )   そこで今回紹介するのが、島根県「奥出雲多根自然博物館」。登録博物館としては、全国で唯一の宿泊できる博物館です。「宇宙の進化と生命の歴史」をテーマとしており、約 40 億年にも及ぶ生物の長い歴史を物語る化石が展示されています。珍しい恐竜や古代生物の化石、貴重な鉱物などなど。   宿泊室は、全部で19室。そのうちの7室が恐竜テーマのお部屋になっています。 そしてなんと宿泊者限定で、ナイトミュージアムが公開されています。 薄暗い中、ライトで照らされた恐竜の化石は昼間とは違った迫力があり、恐竜の鳴き声や足音が聞こえてくるなどムードたっぷり。                      ( 奥出雲多根自然博物館 HP より )   無料で貸し出してくれる懐中電灯を持って、幼い頃の夢を叶えませんか。   参考サイト:奥出雲多根自然博物館 HP   http://tanemuseum.jp        奥出雲多根自然博物館 Facebook https://www.facebook.com/tanemuseum/photos/pcb.5164151973632202/5164112743636125/   M ・ M

【コラム】知らない場所で、新しい何かに触れる。

   旅は、好きですか? 私は旅が大好きです。それも一人でぶらぶらするか、家族など気が合う僅かな人と行く、小ぢんまりした旅をよくします。元来マイペースな性格で気分の浮き沈みがあるので、修学旅行のような大人数でワイワイする空間はどうしても気を張りすぎてしまうんです。自分のペースで旅をすると、日常から離れてとても開放的な気分になれます。そして、旅の中で、一通りの観光スポットと並んでほぼ確実に訪れるのが、その土地の歴史や生活文化を体感できる博物館です。 実は、私にとって旅の途中で博物館を訪れるのは、かなりハードルが高いことです。一人旅のときは都合さえ合えば行くこと自体はできますが、自分の好みに合っているか滞在時間の見積もりを間違えると、その後の予定や気分に大きな影響が出ます。これが複数人での旅となるとさらに難しくなります。そもそも相手は博物館に行くことが好きか、好きとしても短時間がいいか長時間がいいか、好きなテーマの展示をやっているか、といろいろ考える必要があります。私は、時間や周りの人への配慮に追われることがそもそも得意ではないため、普段から気疲れすることも多いのに、旅でも同じようになるとさらに苦しくなってしまいます。幸いにも私の家族は歴史や美術などが好きで私の性格にも理解があり、博物館に行くことを楽しみにしてくれています。ある日、いつものように家族旅行の計画を立てていたら、家族に「スケジュールは任せたよ。今度行く場所にはどんな施設があるの?」と声を掛けられました。 では、そこまで苦労をして、なぜ旅先であえて博物館を訪れるのか、と思われるかもしれません。私も時々考えることがあります。しかし、理由はいたって単純です。 「知らない場所に行って、新しい何かに触れることが好きだから」 これは、そもそもなぜ旅が好きなのか、という質問をされたときの答えでもあります。知的好奇心を満たす、とも言えるかもしれませんが、ただ単に新しいことを学ぶだけなら本を読んだりインターネットで調べたりするだけで十分だと思います。ここで大切なのは、「知らない場所へ行く」ことと、「新しい何かに触れる」ということは、家にいるだけ、学校にいるだけ、職場にいるだけでは絶対に不可能だということです。そして、苦労して行った先にある博物館での時間が、私にとっては何より幸せなものであるといえます。

【コラム】現代へと受け継がれる日本の版画

  日本の印刷・版画の歴史は非常に長い。 木版印刷が伝来したのは飛鳥時代にまで遡る。飛鳥時代には、木版による経典の大量印刷が行われた。法隆寺の「百万塔陀羅尼」が木版印刷の最古の例とされている。 平安後期には「末法思想」が流行したことで、仏の姿も描かれるようになり、木版印刷は木版画へと移行していった。 鎌倉時代・室町時代には経典や漢文学を複製した木版印刷物が盛んに生み出された。多くの書物が生み出されたことにより、文字木版の技術向上が進んだ。 江戸時代には木版画(木版印刷の一種)である浮世絵が栄え、葛飾北斎や歌川広重など有名な浮世絵師が活躍した。絵師、彫師、摺師が分業することで 1 つの作品を完成させた。 明治時代になると、機械による大量印刷ができるようになったため、伝統的な浮世絵版画は衰退していった。しかし、出版業界や職人により浮世絵の近代化、復興を目指した「創作版画」や「新版画」が生み出された。 現代でも伝統的な技法を用いた木版画は存在し、復刻版が制作されている。日本の版画は新たな技術の登場により危機的な状況に陥ったが、伝統的技法が失われないような努力がされ続けてきたのである。ぜひ一度伝統的な版画を手に取って、歴史を感じてみてはいかがだろうか。( N.T )   参考 竹笹堂「日本の木版印刷・木版画の歴史」 ( https://www.takezasa.co.jp/mokuhan/mokuhan02.html ) 木版画 – Wikipedia ( https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%A8%E7%89%88%E7%94%BB )

【コラム】「博物館の常設展」

  普段の生活の中で博物館や美術館に関連する情報を目にするとしたら、それは特別展に関するものではないだろうか。各館は特別展について、ポスターやチラシ、 SNS などを活用した宣伝を行っており、それをきっかけに博物館や美術館へ赴く利用者も少なくないだろう。今回は、特別展と比較してあまり宣伝を目にしない常設展についてご紹介したい。 多くの博物館・美術館は、主に各館の収蔵品で構成された常設展を有している。その場所を初めて訪れる時には常設展も含めて全ての展示を見て回っても、特別展の度に博物館や美術館を訪れるようになると、徐々に常設展へは足が向かなくなることもあるのではないだろうか。しかし、それはとてももったいないことである。 研究や教育などと並んで、収集は博物館の主要な活動の一つである。博物館は寄贈を受けたり購入したり、様々な方法で新しい資料を収蔵し、研究し、そして公開している。常設展には、博物館で行われている収集や研究の活動が多く反映されているのである。 常設展に力を入れている博物館は少なくない。「常設展」あるいは「コレクション展」のような同じ名称で展示されていたとしても、その中身は一年の中で入れ替わり、変化していることが多いのである。例えば名古屋大学の学生証を提示することによって無料で観覧が出来る四つの博物館・美術館についても、全て一年の中で複数回、常設展の入れ替えが行われている。徳川美術館に関しては約一ヶ月ごとの入れ替えと、かなり頻繁である。一度訪れた博物館の常設展であっても、中身が変わることでまた別の資料を楽しむことが出来る。もちろん、会期中であれば見たことのあるお気に入りの資料を楽しむことも可能だ。博物館の常設展は、一度見て終わりにしてしまうにはもったいない、魅力の詰まったものである。訪れたことがある博物館であっても、定期的に赴き、常設展を観覧することを強くおすすめする。

【コラム】

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皆さんは、博物館に行った際、展示室が暗くて驚いた、という経験をしたことはないでしょうか。 例えば、この写真は大阪市の藤田美術館の展示室です。 非常に照明が暗いことがわかるかと思います。これはなぜでしょうか。 理由は大きく分けて二つあります。 一つは、展示品を保護するためです。 展示品は光に弱く、そのほとんどが光に当てることで劣化してしまいます。これは日光のような強い光に限らず、展示室の照明にも当てはまります。とはいえ、照明がなくては、私たちは展示品を鑑賞することはできません。そのため、できるだけ劣化を防ぎ、かつ適切に皆さんが展示品を鑑賞できるよう、照明が少し暗めに設定されているのです。 もう一つは、展示品を本来のコンテクスト ( 文脈 ) に近づけた状態で展示するためです。 神奈川県の岡田美術館で開催された「金屏風展」の写真を見てみましょう。 暗い展示室に屏風が飾られています。屏風は城や貴族の屋敷などで用いられていましたが、これらの場所は、当時ほとんど光の入ってこない空間でした。そのため照明を暗めにして、本来設置されていた場所で屏風がどのように見えていたのかという情報を提供しているのです。 このように、実際に展示品があった場所の明るさを再現することで、展示品本来の魅力を最大限伝えようとしているのです。 (Y.Y) 画像引用 https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/na/18/00010/072100102/ https://www.kanaloco.jp/news/culture/entry-191001.html  

【コラム】自宅でできる!対話型鑑賞

 美術の楽しみ方は、一人で静かに鑑賞するだけではありません。他の人と感想を言い合うこ とで、新たな見方が発見されることがあります。これを、対話型鑑賞と言います。  対話型鑑賞は次の手順で行います。  ① 作品を選ぶ(鑑賞者が親しみやすく、ある程度複雑でストーリーが読み取れるものがよ いです)  ② 感想を言い合う前にじっくりと作品を見る  ③ 3 つの問いかけをしながら感想を言い合う  「作品の中で、どんな出来事が起きているでしょうか?」  「作品のどこからそう思いましたか?」 「もっと発見はありますか?」  話し合いでは、発言者の意見をしっかり聞き、話している個所を指さしたり言葉をパラフレ ーズしたりして活発に応答するとよいでしょう。また、技法や作者の意図は気にせず、自由な感性で鑑賞するのが面白いです。  今回の実習では、これまでになく多くの対話型鑑賞を行うことができました。7 分~13分 かけてじっくり意見を出し合うと、自分の思いもつかなかったものの見方を知ることができ、芸術の多義的な側面に改めて面白さを感じます。  屋内で過ごすことがまだ多いこの頃、自宅でも、オンラインでも、友人や家族と対話型鑑賞を試してみませんか。  H. T  参考文献  栗田秀法(2019). 『現代博物館学入門』. ミネルヴァ書房. 185-187

【コラム】吉原英雄『版画集『ペット・ショップ』より 短毛犬』を担当して

  私は今回の博物館実習で、吉原英雄の『版画集『ペット・ショップ』より 短毛犬』( 1978 )というリトグラフ作品を担当した。 実習の冒頭で誰がどの作品を担当するかを決めた際、私がこの作品を選んだのは「犬が 4 匹もいるから」という単純な理由からであった。私は猫も犬も大好きである。   作品の解説文を書くために吉原について調べていて驚いたことがある。それは、吉原が広島県因島市(今の尾道市)出身で、若い頃に岡山県の大原美術館に何度か足を運んでいたということだ。吉原は大原美術館に展示されているポール・セザンヌの『風景』に衝撃を受けたのだという。 大原美術館とは、岡山県倉敷市にある日本最初の私立西洋美術館である。私は岡山県出身で、大原美術館には幼い頃から数えきれないほど足を運んできた。吉原が衝撃を受けたというセザンヌの『風景』も見たことがある。学校の遠足で大原美術館に行ったこともあれば、母親と二人で行ったこともあった。進学で岡山を離れてからも、帰省時にふらっと足を運んでいる。 つまり私にとって大原美術館は、日常にとても近い、思い出のつまった美術館なのである。まさかそのような美術館の名前がここに出てくるとは思わず、私は一気に吉原という版画家について興味を持つようになった。描かれている犬がきっかけで選んだ作品ではあったが、この作品を担当できて良かったと思う。   今回の実習で作ったキャプションには、作者名と生没年の下に出身地も記載されている。デザイン班いわく「自分と同じ出身地の作家がいたら親近感が湧く鑑賞者もいるかもしれないから」という狙いがあるそうである。大原美術館という共通点をきっかけに吉原への興味が増した私は、この狙いはいささか外れていないのではと思う。ぜひキャプションにも注目していただきたい。 最後に、 Word へ無造作に打ち込んで提出したキャプションや解説文を、素敵なデザインへ落とし込んでくださったデザイン班の方々には感謝したい。 N.M.   参考:ふくやま美術館( 2005 )『吉原英雄:ポップなアート』 , 双葉印刷有限会社

【コラム】赤目四十八滝で世界最大級の両生類に出会う

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  みなさんは、「博物館」というとどのような施設を思い浮かべますか? 博物館とは、歴史博物館や科学博物館をはじめ、美術館、動物園、水族館などを含む多種多様な施設を指す言葉 1) です。私は生き物が好きなので、よく動物園や水族館に行きます。   今回は変わり種として、サンショウウオ(特にオオサンショウウオ)専門のユニークな水族館「日本サンショウウオセンター」を紹介したいと思います。   サンショウウオは、カエルと同じ両生類ですが、カエルと違って、細長い胴と長い尾を持っています。日本サンショウウオセンターでは、世界最大級の両生類で国の特別天然記念物「オオサンショウウオ」をはじめとする様々なサンショウウオを見ることができます。   日本サンショウウオセンター(撮影日: 2018 年 10 月 3 日)   日本サンショウウオセンターは、三重県名張市の滝の名所「赤目四十八滝」 2) の入り口にあります。市街地から少し離れた山の中にあります。   Google マップ上に示した日本サンショウウオセンター   市街地から日本サンショウウオセンターに向かう途中、何度もオオサンショウウオに出会います。   橋の欄干(撮影日: 2018 年 10 月 3 日)   護岸(撮影日: 2018 年 10 月 3 日)   湧き水(撮影日: 2018 年 10 月 3 日)   日本サンショウウオセンターの入り口では、マスコットキャラクターの「さんちゃん」と「タッキー」がお出迎えしてくれます。   マスコットキャラクターの「さんちゃん」と「タッキー」(撮影日: 2018 年 10 月 3 日)   館内のオオサンショウウオには、それぞれ名前が付いています。   交雑種のオオサンショウウオ(撮影日: 2018 年 10 月 3 日)   日本サンショウウオセンターのオオサンショウウオには、日本のオオサンショウウオ、中国のチュウゴクオオサンショウウオ、両者の交雑種の 3 種がいます。展示では、 3 種をキャプションの国旗で区分しています。     チュウゴクオオサンショウウオ(撮影日: 2018 年 10 月 3 日)   生態展示のほか、パネル解説や骨格標本の展示も

鍔本達郎≪In Black 85ー5≫大人用解説シート

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元田久治≪Indication-Tokyo University≫大人用解説シート

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吉原英雄≪短毛犬「版画集『ペット・ショップ』より」≫大人用解説シート

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澁谷和良≪斜光林≫大人用解説シート

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【オリジナル記事】~イランカラプテ~北海道各地にあるアイヌの博物館

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 アイヌとは、北海道や千島列島、樺太に住む先住民族を指す。明治以前は独自言語を持ちつつも独自の文字を持たず、農耕ではなく独自の猟具を用いて狩猟を中心に生活していた。イランカラプテはアイヌの挨拶の言葉で、「貴方の心にそっと触れさせていただきます」という意味であるという。また、神「カムイ」が自然の動植物の他、人工の道具にも姿を変え、人間の暮らす世界「アイヌモシリ」に現れているという、独特の信仰をもっていた。明治以降は北海道旧土人法や伝統的な狩猟の禁止、部族言語による会話禁止など、数々の差別・弾圧を受けてきたことでも知られる。 そうしたアイヌの文化を守り、受け継ぐ博物館が、北海道各地に点在する。筆者は昨年度に北海道へ計27日滞在しており、道内の各地でアイヌの博物館や展示を訪れた。各々を訪れたことは、道内の各地でアイヌの文化にも違いが見られることであった。ここで気をつけるべきことは、アイヌは単一の集団ではなく、北海道各地や樺太、千島列島の各地に点在した集団の総称のことである。 まず、最近菅義偉元首相が訪れ、北海道のアイヌ保護の象徴といわれるウポポイについて。別名、民族共生象徴空間。日本のアイヌ保護の象徴的存在であり、北海道のアイヌの伝統的な衣服や祭器、狩猟道具を中心に展示される。野外にはポロト湖と呼ばれる湖が広がり、アイヌの家屋が野外展示されている。アイヌ文化を学ぶための体験教室やシアターも展示され、アイヌの伝統的文化を学ぶためならオススメである。 しかし一方で、アイヌが和人に迫害された歴史や、逆にアイヌ保護に至る過程についてはあまり語られず、それ故に一部の迫害されてきたアイヌから不満を買うこともある。また、北海道各地で同じアイヌでも文化が異なることは、ウポポイからは見えづらかった。理由として、そもそもウポポイがアイヌ民族という1つのカテゴリーを通して、アイヌの文化の保護や伝承を行っているためである。 次に稚内市北方記念館について。この博物館では日本最北端の市町村である稚内市とその周辺に住んでいた「宗谷アイヌ」という小集団を紹介している。彼ら宗谷アイヌは、稚内よりも北に位置する樺太との関わりや、15世紀から北方警備を行っていた会津藩との関わりの中で説明される。樺太には樺太アイヌという、宗谷アイヌとはまた別の小集団が存在した。 最後に阿寒湖アイヌコタンについて、阿寒湖のほとり

東谷武美≪日蝕O≫大人用解説シート

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原健≪STROKE 74-11≫大人用解説シート

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アントニ・タピエス≪Senanque 1≫大人用解説シート

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ドラクロワ≪ファウストとワーグナー≫大人用解説シート

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【オリジナル記事】見るものすべてがアート~金沢21世紀美術館

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  皆さんは美術館というとどのようなイメージを思い浮かべるでしょうか?特別芸術に興味のない方であれば、暗い、静か、堅苦しい、鑑賞しても作品が理解できないというネガティブな印象を抱いている方が多いかもしれません。 しかし、芸術を見るときは必ずしも対象を完全に理解する必要はありません。日本を代表する評論家である小林秀雄などが指摘するように、芸術を見るうえで大切なのは論理ではなく感動、すなわち感情が自然と動くことにあるのです。今回紹介する金沢 21 世紀美術館はまさにそんな「感動」を体現する美術館なのです。                                    https://tabi-mag.jp/is0332/  金沢 21 世紀美術館は 2004 年に現代美術を収蔵する美術館として建てられました。妹島和世+西沢立衛/ SANAA によって設計された円形、銅ガラス張りが特徴的な建屋はどこ からも正面として入場できるようになっており、コンセプトであるである「まちに開かれた公園のような美術館」を体現しています。  公園というコンセプトにふさわしく、屋外には自由に鑑賞し遊ぶことのできる美術作品、遊具が置かれています。代表的なものをいくつか挙げてみます。                       https://www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=30&d=10  『カラー・アクティヴィティ・ハウス』は色の三原色の色ガラスの壁が一点を中心に渦巻き条のパビリオンを形成する作品で見る場所や何に入っている人や物によって色合いが変化する人気のフォトスポットです。                      https://www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=30&d=6  『ラッピング』は中に子供が入って遊ぶことが出来るように設計されたパビリオンで、パイプとメッシュによって作り出される透過性が魅力的です。                      https://www.kanazawa21.jp/file.php?g=30&d=2&n=mainimage&gp=&lng=j&p=1  『アリーナのための クランクフェルト・ナンバー 3

ウジェーヌ・ドラクロワ(1798-1863)《ファウストとワーグナー》1827 年 リトグラフ

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  水と油の反発作用を用いた版画技法であるリトグラフは 18 世紀後半に発明されたが、この技術を用いて早期から優れた美術作品を制作した画家の一人が、 19 世紀フランスのウジェーヌ=ドラクロワである。フランス語版『ファウスト』第一部の挿絵は、ドラクロワによる初めての本格的な連作リトグラフであり、全ての挿絵をあたかも独立した版画作品かの様に 1 ページ大で製作する手法は当時の常識の範疇を越えるものであった。ドラクロワによるイギリスのロマン主義の影響を伺える突飛で誇張した身振り、激情的な明暗対比などの描写も当時の読者には衝撃的であり、挿絵は酷評され、売り上げも芳しくなかったとされる一方で、『ファウスト』の作者ゲーテはドラクロワの比類ない才能を絶賛した 。 本作品『ファウストとワーグナー』はそれら一連のリトグラフのうちの一つである。下部中央の記銘は、助手ワーグナー(中央左)に向けた以下のような学者ファウスト(中央右)のセリフである。   “Heureux qui peut conserver l'esp é rance de surnager sur cet oc é an d'erreurs! ...L'esprit a beau d é ployer ses ailes, le corps, h é las! n'en a point à y ajouter.” 「過ちの海の上で生きながらえる希望を保つことのできる人は幸福だ!…精神がいかにその翼を広げようと望んでも、ああなんということか、肉体はそれに何物も与えないのだ。」   ファウストは頬杖をつき、悩みを解さない助手ワーグナーから目を逸らし、苛立った様子である。この場面では周囲の行楽に興じる人びとの明るい雰囲気と陰鬱な二人の姿が明白な対比として現れており、いくら学問を修めても世界の全て知り尽くすことは不可能であることを知ったファウストの絶望、悲壮が強調されている。ファウストの苦悩の姿は前作から引き続いたものであり、連続性を重視するドラクロワの制作態度が明瞭に認められる。 【参考文献】 ・橘秀文編著『ドラクロワとシャセリオ―の版画』岩崎美術社 ・富山県立近代美術館『石に描くー石版画の200年 ゼネフェルダーからピカソまで』

渋谷和良(1958- )《斜光林》1989 年、リトグラフ

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「斜光林」は渋谷和良によって、平面版画の技法の一つ、リトグラフを用いて制作された版画です。 油絵の作成にも取り組んでいた渋谷は、版画分野においては、より使いやすいアルミや亜鉛ではなく、石版石を用いたリトグラフの制作にこだわりを持っていました。非常に重く、自分の自由に扱うことが出来ないからこそ、身体性で遊ぶということが可能だと考えたためです。 「斜光林」を眺めると、大きな版画の中に様々な点や線、また色が混在していることが分かります。リトグラフを単なる版画の一技法とするのではなく、一版ずつ色を加えることで重層的な世界を成立させる手段としている点に特徴があります。こうすることで、リトグラフという平面の中に、立体的な奥行きが生まれているのです。筆の運動を感じさせる黒のストロークが、あえてこの奥行きの上に置かれることで、立体的な世界が平面の中に閉じ込められているかのように感じられます。平面版画であるリトグラフと、その中に描かれている立体的な世界、その両方を「斜光林」を通して味わうことが出来ます。  

鍔本達朗(1952- )《In Black 85-5》1985 年、リトグラフ

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版画は「黒に始まり黒に終わる」といわれるように、黒が基盤となる芸術である。本作「 In Black 」シリーズは、この黒を効果的に用いた作品群であり、今回の展覧会で展示される「 In Black 85-5 」もそのうちの一つである。   この作品はどのような世界を描写しているのだろうか。深海を表していると感じる人もいれば、宇宙を表していると感じる人、若しくはまた別の世界を想像する人もいるかもしれない。黒い背景のなかに彩度を抑えた色調のモチーフがうかび上がり、厳かで幻想的な世界を作り上げるこの作品は、見る者に多様な解釈を与えるだろう。さらに近づいてみると、モチーフの中に日本美術を思わせるような線が走っているのがわかる。本作品は、一見西洋美術的な秩序を感じさせるが、その中の無造作な線が作品の魅力を増幅させ、独特の世界を形作っている。細やかな筆致や巧みな色遣いは、リトグラフという版画技法が十分に活かされた結果と言えるだろう。   作者の鍔本達朗は愛知県出身の版画家である。鍔本は武蔵野美術大学にて版画を学び、パリに留学してその技術を磨いた。石田財団芸術奨励賞をはじめとした多くの賞を受賞している。現在は碧南市の市議会議員を務めている。   参考 中日新聞 朝刊 1990 年 5 月 9 日 県内版 16 頁 「空間と色彩ユニーク 石田財団芸術奨励賞 牛田明・鍔本達朗展」 中日新聞 朝刊 1990 年 12 月 15 日 県内総合版 17 頁 「詩や現代美術で活躍 碧南在住3作家が出版と受賞祝賀会 あす、音楽演奏会も」 中日新聞 朝刊 2001 年 10 月 4 日 西河総合版 21 頁 「親しみと前衛 陶芸と石版画 高浜、碧南で作品展」